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 『日本橋』 青空文庫

「別れに献した盃を、清葉が、ちっと仰向くように、天井に目を閉いで飲んだ時、世間がもう三分間、もの音を立てないで、死んでいて欲しかった。私の胸が、この心が、どうなるかそれが試して見たかったが、ドシンばたん、と云う足音。隣室の酔客が総立ちになって、寝るんだ、座敷は、なんて喚いて、留める芸者と折重なって、こっちの襖へばたばたと当る。何を、と云ってね、その勢で、あー……開けるぞ、と思うと、清葉が、膝を支直して、少し反身で、ぴたりと圧えて、(お客様です。)
 そう、屹として言ったんだよ。(誰だ。)と怒鳴ると、(清葉がお附き申しております。)と手に触った撥を握って、すっと立った――芸妓のひそめく声がして、がたがたとそこらが鳴って静まったがね……私は何だか嬉しかったよ。」

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