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『婦系図』 青空文庫
「羽織が無いから日中は出られない、と拗《す》ねたように云うのがねえ、どんなに嬉しそうだったでしょう。それに土地《ところ》馴れないのに、臆病《おくびょう》な妓ですから、早瀬さんがこうやって留守にしていなさいます、今頃は、どんなに心細がって、戸に附着《くッつ》いて、土間に立って、帰りを待っているか知れません、私あそれを思うと……」
と空色の、瞼を染めて、浅く圧えた襦袢《じゅばん》の袖口。月に露添う顔を見て、主税もはらはらと落涙する。
「世迷言《よまいごと》を言うなよ。」
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