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『外科室』 青空文庫
「あのまた、歩行《あるき》ぶりといったらなかったよ。ただもう、すうっとこう霞に乗って行くようだっけ。裾捌き、褄はずれなんということを、なるほどと見たは今日がはじめてよ。どうもお育ちがらはまた格別違ったもんだ。ありゃもう自然、天然と雲上《うんじょう》になったんだな。どうして下界のやつばらが真似《まね》ようたってできるものか」
「ひどくいうな」
「ほんのこったがわっしゃそれご存じのとおり、北廓《なか》を三年が間、金毘羅《こんぴら》様に断ったというもんだ。ところが、なんのこたあない。肌守りを懸けて、夜中に土堤《どて》を通ろうじゃあないか。罰のあたらないのが不思議さね。もうもう今日という今日は発心切った。あの醜婦《すべった》どもどうするものか。見なさい、アレアレちらほらとこうそこいらに、赤いものがちらつくが、どうだ。まるでそら、芥塵《ごみ》か、蛆が蠢めいているように見えるじゃあないか。ばかばかしい」
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