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 『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径

 待てよ。古郷の涅槃会には、膚に抱き、袂に捧げて、町方の娘たち、一人が三ツ二ツ手毬を携え、同じように着飾って、山寺へ来て突競《つきくら》を戯れる習慣《ならい》がある。少《わか》い男は憚って、鐘撞堂から覗きつつその遊戯《あそび》に見惚れたが……巨寺《おおでら》の黄昏に、大勢の娘の姿が、遥に壁に掛った、極彩色の涅槃の絵と、同一状《おなじさま》に、一幅の中へ縮まった景色の時、本堂の背後《うしろ》、位牌堂の暗い畳廊下から、一人際立った妖艶《うつくし》いのが、突きはせず、手鞠を袖に抱いたまま、すらすらと出て、卵塔場を隔てた几帳窓の前を通る、と見ると、もう誰の蔭になったか人数に紛れてしまった。それだ、この人は、否《いや》、その時と寸分違わぬ――

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