検索結果詳細
『外科室』 青空文庫
「ほんのこったがわっしゃそれご存じのとおり、北廓《なか》を三年が間、金毘羅《こんぴら》様に断ったというもんだ。ところが、なんのこたあない。肌守りを懸けて、夜中に土堤《どて》を通ろうじゃあないか。罰のあたらないのが不思議さね。もうもう今日という今日は発心切った。あの醜婦《すべった》どもどうするものか。見なさい、アレアレちらほらとこうそこいらに、赤いものがちらつくが、どうだ。まるでそら、芥塵《ごみ》か、蛆が蠢めいているように見えるじゃあないか。ばかばかしい」
「これはきびしいね」
「串戯《じょうだん》じゃあない。あれ見な、やっぱりそれ、手があって、足で立って、着物も羽織もぞろりとお召しで、おんなじような蝙蝠傘《こうもりがさ》で立ってるところは、憚りながらこれ人間の女だ。しかも女の新造《しんぞ》だ。女の新造に違いはないが、今拝んだのと較べて、どうだい。まるでもって、くすぶって、なんといっていいか汚れ切っていらあ。あれでもおんなじ女だっさ、へん、聞いて呆れらい」
148/165
149/165
150/165
[Index]