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『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径
あれ、彼処に母君在《まし》ますぞや。愛惜《あいじゃく》の一念のみは、魔界の塵にも曇りはせねば、我が袖、鏡と御覧ぜよ。今、この瞳に宿れる雫は、母君の御情《おんなさけ》の露を取次ぎ参らする、乳の滴《したたり》ぞ、と袂を傾け、差寄せて、差俯き、はらはらと落涙して、
「まあ、稚子《おさなご》の昔にかえって、乳を求めて、……あれ、目を覚す……」
さらば、さらば、御僧。この人夢の覚めぬ間に、と片手をついて、わかれの会釈。
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