検索結果詳細


 『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径

 あれ、彼処に母君在《まし》ますぞや。愛惜《あいじゃく》の一念のみは、魔界の塵にも曇りはせねば、我が袖、鏡と御覧ぜよ。今、この瞳に宿れる雫は、母君の御情《おんなさけ》の露を取次ぎ参らする、乳の滴《したたり》ぞ、と袂を傾け、差寄せて、差俯き、はらはらと落涙して、
 「まあ、稚子《おさなご》の昔にかえって、乳を求めて、……あれ、目を覚す……」
 さらば、さらば、御僧。この人夢の覚めぬ間に、と片手をついて、わかれの会釈。

 1492/1510 1493/1510 1494/1510


  [Index]