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 『絵本の春』 青空文庫

 桃も桜も、真紅《まっか》な椿も、濃い霞に包まれた、朧《おぼろ》も暗いほどの土塀の一処《ひとところ》に、石垣を攀上《よじのぼ》るかと附着《くッつ》いて、……つつじ、藤にはまだ早い、――荒庭の中を覗《のぞ》いている――絣《かすり》の筒袖を着た、頭の円い小柄な小僧の十余りなのがぽつんと見える。
 そいつは、……私だ。
 夢中でぽかんとしているから、もう、とっぷり日が暮れて塀越の花の梢《こずえ》に、朧月《おぼろづき》のやや斜《ななめ》なのが、湯上りのように、薄くほんのりとして覗《のぞ》くのも、そいつは知らないらしい。

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