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『龍潭譚』
青空文庫
「泣くでねえ泣くでねえ。もうぢきに坊ツさまの家《うち》ぢや。」と慰めぬ。かなしさはそれにはあらねど、いふもかひなくてただ泣きたりしが、しだいに身のつかれを感じて、手も足も綿の如くうちかけらるるやう肩に負はれて、
顔
を垂れてぞともなはれし。見覚えある板塀《いたべい》のあたりに来て、日のややくれかかる時、老夫《おじ》はわれを抱き下して、溝のふちに立たせ、ほくほく打ゑみつゝ、慇懃に会釈したり。
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