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 『活人形』 鏡花とアンティークと古書の小径

 「まづ、安心だ。うん八蔵帰《けえ》つたか、それ其死骸の面を見いと、指図に八蔵心得て叢中より泰助を引摺り出し、「おや、此奴《こいつ》あ探偵だ。我《おれ》を非道い目に逢はしやあがつた。「何、何うしたと、殺《や》り損つて反対《あべこべ》に当身を喰つた。其だから虚気《うつかり》手を出すなと言はねえことか。や、銀平殿お前もお帰りか。「はい、旦那唯今。「うむ、御苦労、何に下枝様《さん》は如何《どう》ぢや。「早速ながら下枝奴《め》は知れましたか。と二人斉しく問懸くれば、銀平、八蔵交代《かたみがはり》に、八橋楼にての始末を語り、「其でね、いざといふ段になつて部屋へ這入ると御本人様《さん》何処へ消えたか見えなくなりました。これは八蔵殿《どん》が前《さき》へ廻つて連出したのかと思つた処が、喃《なう》八蔵殿《どん》。「おゝさ、己《おれ》も墓場の方で、銀平様《さん》の合図を待つてましたが、別に嬢様《じやうさん》の出て来る姿を見附けませんで、「もう/\尋飽倦《たづねあぐみ》まして、夜も更けますし、旦那方の御智慧を借りようと存じまして一先づ帰りました。といふに得三頭を傾け稍久しく思慮《かんがへ》居たるが、其にて思ひ当りたり。「して見ると下枝は又家内《うち》へ帰つて来たかも知れぬ。といふのは、今しがた誰も居ないのに声が懸つて、人形が物を言ふていこたあ無い筈だと思つたが、下枝の業《わざ》であつたかも知れぬ哩《わい》。待て、一番《ひとつ》家内《うち》を検《しら》べて見よう。其死骸はな、好く死んだことを見極めて、家内《うち》の雑具《ざふぐ》部屋へ入れて置け。高田様《さん》、貴下も御迷惑であらうが手伝つて下枝を捜して下さい。探偵は片附けて了つたト、此で下枝さへ見附ければ、落着いてお藤が始末も附けます。と高田を誘《いざな》ひ内に入りぬ。

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