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 『義血侠血』 青空文庫

 渠は実に死すべしと念《おも》いぬ。しだいに風歇《や》み、馬駐《とど》まると覚えて、直ちに昏倒して正気を失いぬ。これ御者が静かに馬より扶《たす》け下ろして、茶店の座敷に舁き入れたりしときなり。渠はこの介抱を主の嫗《おうな》に嘱《たの》みて、その身は息をも継かず再び羸馬《るいば》に策《むちう》ちて、もと来し路を急ぎけり。
 ほどなく人は醒めて、こは石動の棒端《ぼうばな》なるを覚《さと》りぬ。御者はすでにあらず。渠はその名を嫗に訊ねて、金さんなるを知りぬ。その為人《ひととなり》を問えば、方正謹厳、その行ないを質《ただ》せば学問好き。

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