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『古狢』
青空文庫
さて、「いらして、また、おいで遊ばして」と枝折戸でいう一種綿々たる余韻の松風に伝う挨拶は、不思議に嫋々《じょうじょう》として、客は青柳に引戻さるる思《おもい》がする。なお一段と余情のあるのは、日が暮れると、竹の柄の小提灯《こぢょうちん》で、松の中の径《こみち》を送出すのだそうである。小褄《こづま》の色が露に辷《すべ》って、こぼれ松葉へ
映
るのは、どんなにか媚《なまめ》かしかろうと思う。
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