検索結果詳細


 『貝の穴に河童の居る事』 青空文庫

「そんな重いもの持運ぶまでもありませんわ。ぽう、ぽっぽ――あの三人は町へ遊びに出掛ける処なんです。少しばかり誘《さそい》をかけますとね、ぽう、ぽっぽ――お社近《ぢか》まで参りましょう。石段下へ引寄せておいて、石投魚の亡者を飛上らせるだけでも用はたりましょうと存じますのよ。ぽう、ぽっぽ――あれ、ね、娘は髪のもつれを撫《なで》つけております、頸《えり》の白うございますこと。次の室《ま》の姿見へ、年増が代って坐りました。――感心、娘が、こん度は円髷《まるまげ》、――あの手がらの色は涼しい。ぽう、ぽっぽ――髷の鬢《びん》を撫でつけますよ。女同士のああした処は、しおらしいものですわね。酷《ひど》いめに逢うのも知らないで。……ぽう、ぽっぽ――可哀相ですけど。……もう縁側へ出ましたよ。男が先に、気取って洋杖《ステッキ》なんかもって――あれでしょう。三郎さんを突いたのは――帰途《かえり》は杖にして縋《すが》ろうと思って、ぽう、ぽっぽ。……いま、すぐ、玄関へ出ますわ、ごらんなさいまし。」

 154/257 155/257 156/257


  [Index]