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 『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径

 騒ぐまいてや、やい、嘉吉、こう見た処で、二歩と一両、貴様に貸のない顔はないけれど、主人のものじゃ。引負をさせてまで、勘定を合わしょうなんど因業な事は言わぬ。場銭を集めて一樽買ったら言分あるまい。代物《だいもつ》さえ持って帰れば、何処へ売っても仔細はない。
 なるほど言われればその通り、言訳の出来ぬことはござりませぬわ、のう。
 銭さえ払えば可いとして、船頭やい、船はどうする、と嘉吉がいいますと、ばら銭を掴《にぎ》った拳を向顱巻《むこうはちまき》の上さ突出して、半だ半だ、何、船だ。船だ船だ、と夢中でおります。

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