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 『貝の穴に河童の居る事』 青空文庫

 向う歯の金歯が光って、印半纏《しるしばんてん》の番頭が、沓脱《くつぬぎ》の傍《そば》にたって、長靴を磨いているのが見える。いや、磨いているのではない。それに、客のではない。捻《ひね》り廻して鬱《ふさ》いだ色《がんしょく》は、愍然《ふびん》や、河童のぬめりで腐って、ポカンと穴があいたらしい。まだ宵だというに、番頭のそうした処は、旅館の閑散をも表示する……背後《うしろ》に雑木山を控えた、鍵の手形《なり》の総二階に、あかりの点《つ》いたのは、三人の客が、出掛けに障子を閉めた、その角座敷ばかりである。

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