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『古狢』 青空文庫
その夜、松の中を小提灯で送り出た、中京、名古屋の一客――畜生め色男――は、枝折戸口で別れるのに、恋々としてお藻代を強いて、東の新地――廓《くるわ》の待合、明保野《あけぼの》という、すなわちお町の家《うち》まで送って来させた。お藻代は、はじめから、お町の内に馴染《なじみ》ではあったが、それが更《あらた》めて深い因縁になったのである。
「あの提灯が寂しいんですわ……考えてみますと……雑で、白張《しらはり》のようなんですもの。」――
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