検索結果詳細


 『蛇くひ』 青空文庫

 一人《にん》榎の下《もと》に立ちて、「お月様幾つ」と叫ぶ時は、幾多の(応)等同音に「お十三七つ」と和して、飛禽の翅《つばさ》か、走獣の脚か、一躍疾走して忽ち見えず。彼《かの》堆《うづたか》く積める蛇《くちなは》の屍も、彼等将に去らむとするに際しては、穴を穿ちて尽《こと/″\》く埋むるなり。さても清風吹きて不浄を掃《はら》へば、山野一点の妖氛《えうふん》をも止《とゞ》めず。或時は日の出づる立山《りふざん》の方より、或時は神通川を日没のより溯り、榎の木蔭に会合して、お月様と呼び、お十三と和し、パラリと散つて三々五々、彼《かの》杖の響く処妖氛《えうふん》人を襲ひ、変幻出没極《きはま》りなし。

 15/35 16/35 17/35


  [Index]