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 『海神別荘』 華・成田屋

僧都  ま、ま、分った。(腰を屈めつつ、圧うるがごとく掌を挙げて制す)何とも相済まぬ儀じゃ。海の住居の難有さに馴(な)れて、蔭日向(かげひなた)、雲の往来(ゆきき)に、潮の色の変ると同様。如意自在(にょいじざい)心のまま、たちどころに身の装(よそおい)の成る事を忘れていました。
なれども、僧都が身は、こうした墨染の暗夜(やみ)こそ可けれ、なまじ緋の法衣(ころも)などを絡おうなら、ずぶ濡(ぬれ)の提灯じゃ、戸惑(とまどい)をした〓(えい)の魚(うお)じゃなどと申そう。圧(おし)も石も利く事ではない。(細く丈長き鉄(くろがね)の錨を倒(さかしま)にして携えたる杖を、軽く突直す。)

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