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『高野聖』 泉鏡花を読む
「お泊りは何方ぢやな、」といつて聞かれたから、私は一人旅の旅宿の詰らなさを、染々歎息した、第一盆を持つて女中が坐睡をする、番頭が空世辞をいふ、廊下を歩行くとじろ/\目をつける、何より最も耐へ難いのは晩飯の支度が済むと、忽ち灯を行燈に換へて、薄暗い処でお休みなさいと命令されるが、私は夜が更けるまで寐ることが出来ないから、其間の心持といつたらない、殊に此頃の夜は長し、東京を出る時から一晩の泊が気になつてならない位、差支へがなくば御僧と御一所に。
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