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 『婦系図』 青空文庫

 もう傍《そば》へ来そうなものと、閑耕教頭が再び、じろりと見ると、お妙は身動きもしないで、熟《じっ》と立って、臈《ろう》たけた眉が、雲の生際に浮いて見えるように俯向いているから、威勢に怖《お》じて、頭《かしら》も得上げぬのであろう、いや、さもあらん、と思うと……そうでない。酒井先生の令嬢は、笑《えみ》を含んでいるのである。
 それは、それは愛々しい、仇気《あどけ》ない微笑《ほほえみ》であったけれども、この時の教頭には、素直に言う事を肯《き》いて、御前《おんまえ》へ侍《さぶら》わぬだけに、人の悪い、与《くみ》し易からざるものがあるように思われた。で、苦いをして、

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