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 『義血侠血』 青空文庫

 さて太夫はなみなみを盛りたるコップを左手《ゆんで》に把《と》りて、右手《めて》には黄白《こうはく》二面の扇子を開き、やと声発《か》けて交互《いれちがい》に投げ上ぐれば、露を争う蝶一双《ひとつ》、縦横上下に逐いつ、逐われつ、雫も滴《こぼ》さず翼も息《やす》めず、太夫の手にも住《とど》まらで、空に文《あや》織る練磨の手術、今じゃ今じゃと、木戸番は濁声《だみごえ》高く喚《よば》わりつつ、外面《おもて》の幕を引き揚げたるとき、演芸中の太夫はふと外《と》の方に眼を遣りたりしに、何にか心を奪われけん、はたとコップを取り落とせり。

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