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 『活人形』 鏡花とアンティークと古書の小径

高田は尚も詰寄りて、「妖物《ばけもの》屋敷に長居は無益《むやく》だ。直ぐ帰るから早く渡せ。「そりや借りた金だ抵当のお藤が居無くなれば、屹度お返済《かへし》申すが、未だ家の財産も我が所有《もの》にはならず、千円といふ大金、今といつては致方《いたしかた》がございません。何卒《どうぞ》暫時《しばらく》の処を御勘辧。「うんや、ならねえ。此駄平、言ひ出したからは、血を絞つても取らねば帰らぬ。きり/\此処へ出しなさい。と言ひ募るに得三は赫として、「こゝな、没分暁漢《わからずや》。無い者《もな》ア仕方が無え。と足を出せば、「踏む気だな。可いわ。踏むならば踏んで見ろ。おゝそれながらと罷り出て、汝《きさま》の悪事を訴へて、首にしてやるから覚悟しやあがれ。得三はぎよつとして、「何の、踏むなどといふ図太い了簡を出すものか。と慌つる状《さま》に高田は附入《つけい》り、「そんなら金を、さあ返済《かへ》せ。「今といつては何とも何うも。「ぢや訴へて首にしようか。「其は余り御無体な。「えゝ!面倒だ。と立懸れば、「まあ、待つて呉れ。と袂を取るを、「乞食め、動くな。と振離され、得三忽ち血相変り、高田の帯際無手《むず》と掴みて、じり/\と引戻し、人形の後の切抜戸を、内よりはたと鎖《とざ》しける。

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