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 『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径

 船はそれまで、ぐるりぐるりと長者園の浦を廻って、丁どあの、活動写真の難船見たよう、波風の音もせずに漂うていましたげな。両膚脱の胸の毛や、大胡座の脛の毛へ、夕風が颯とかかって、慄然《ぞっ》として、皆が少し正気づくと、一ツ星も見えまする。大巌《おおいわ》の崖が薄黒く、目の前へ蔽被《おっかぶ》さって、物凄うもなりましたので、褌を緊め直すやら、膝小僧を合わせるやら、お船頭が、ほういほうい、と鳥のような懸声で、浜へ船をつけまして、正体のない嘉吉を撲ぐる。と、むっくり起きたが、その酒樽の軽いのに、本性違わず気落がして、右の、倒れたものでござりますよ。はい。」

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