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 『活人形』 鏡花とアンティークと古書の小径

 さりとは底の知れぬ悪党なり。八蔵は手を拍つて「旨い。と叫べり。「而《さう》して己《おれ》が口の前《さき》で旨く世間を欺けば、他に親類は無し、城家の財産はころりと我《おれ》が手へ転がり込む。何と八蔵さうなる日にはお前には一割は遣るよ。「えゝ有難い、夢になるな/\。「もう是切り御苦労は懸けないが、もう一番《ひとつ》頼まれてくれ。「へい、何なりとも。「銀平は何うした。「頻に飲んで居ります。「彼奴《あいつ》も序《ついで》に片附けて了ひ度い、家でやつては面倒だから、是から飲直すといつて連出してな。「へい/\、なるほど。「何処かへ行つて酒を飲まして、ちよいと例の毒薬を飲ましやあ訳は無い、酔つて寝たやうになつて、翌日《あす》の朝は此世をおさらばだ。「承りました。併し今時青楼《おちやや》で起きて居ませうか。「藤沢の女郎屋は遠いから、長谷あたりの淫売店《ぢごくやど》へ行けば、何時でも起きて居らあ、一所にお前も寝て来るが可い。「ぢやあ直ぐと参ります。「御苦労だな。「なんの貴下。と行懸くるを、「待て、待て。「え。「宿屋の亭主とかは何《どう》したのだ。「手足を縛つて猿轡を噛まして、雑具部屋へ入れときました。「よし、よし。仕事が済んだら検《しら》べて見て大抵なら無事に帰して遣れ。「へい左様なら。と八蔵は勝手に行きて銀平を見れば、「八、やい、置去りにして何処へ行つて居た。といふさへ今は巻舌にて、泥の如くに酔うたるを、飲直さむとて連出しぬ。

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