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 『天守物語』 泉鏡花を読む

亀姫 はい、私が廂《ひさし》を貸す、猪苗代亀ヶ城《しろ》の主、武田衛門之介の首でございますよ。
夫人 まあ、あなた。(間)私のために、そんな事を。
亀姫 構ひません、それに、私がいたしたとは、誰も知りはしませんもの。私が城を出ます時はね、まだこの衛門之介はお妾の膝に凭《より》掛つて、酒を飲んで居りました。お大名の癖に意地が汚くつてね、鯉汁《こひこく》を一口に食べますとね、魚の腸《はらわた》に針があつて、それが、咽喉《のど》へさゝつて、それで亡くなるのでございますから、今頃丁どそのお膳が出たぐらゐでございますよ。(ふと驚く。扇子を落す)まあ、うつかりして、此の咽喉《のど》に針がある。(もとゞりを取つて上《あ》ぐ)大変なことをした、お姉様《あねえさま》に刺さつたら何《ど》うしよう。

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