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 『龍潭譚』 青空文庫

 色彩あり光沢ある虫は毒なりと、姉上の教へたるをふと思ひ出でたれば、打置きてすごすごと引返せしが、足許《あしもと》にさきの石の二ツに砕けて落ちたるより俄に心動き、拾ひあげて取つて返し、きと毒虫をねらひたり。
 このたびはあやまたず、したたかうつて殺しぬ。嬉しく走りつきて石をあはせ、ひたと打ひしぎて蹴飛ばしたる、石は躑躅のなかをくぐりて小砂利をさそひ、ばらばらと谷深くおちゆく音しき。

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