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 『夜叉ヶ池』 青空文庫

晃 委《くわ》しい事は、夜すがらにも話すとして、知ってる通り……僕は、それ諸国の物語を聞こうと思って、北国筋を歩行《ある》いたんだ。ところが、自身……僕、そのものが一条《ひとくだり》の物語になった訳だ。――魔法つかいは山を取って海に移す、人間を樹にもする、石にもする、石を取って木《こ》の葉にもする。木の葉を蛙《かえる》にもするという、……君もここへ来たばかりで、もの語《かたり》の中の人になったろう……僕はもう一層、その上を、物語、そのものになったんだ。
学円 薄気味の悪い事を云うな。では、君の細君は、……(云いつつ憚《はばか》る。)
晃 (納戸を振向く)衣服《きもの》でも着換えるか、髪など撫《なで》つけているだろう。……襖《ふすま》一重だから、背戸へ出た。……

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