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 『日本橋』 青空文庫

「国手、御診察が願いてえだな。」
 と、粗雑に太く云った。が、口覚えに練習した、腹案の口上が中途で切れて、思わず地声を出したらしい。……で、頭を下げて熊は橋の上に蹲る。
 四五分では、話のけりは着ないと覚ったろう。葛木は巻煙草を点けた。燃えさしの燐寸をト棄てようとして水に翳すと、ちらちらと流れる水面の、他の点燈に色を分けて、雛の松明のごとく、軸白く桃色に、輝いた時、彼はそこに、姉を思った。潰島田の人形を思った、栄螺と蛤を思った、吸口の紅を思って、火を投げるに忍びなくって、――橋に棄てた。

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