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 『日本橋』 青空文庫

 四五分では、話のけりは着ないと覚ったろう。葛木は巻煙草を点けた。燃えさしの燐寸をト棄てようとして水に翳すと、ちらちらと流れる水面の、他の点燈に色を分けて、雛の松明のごとく、軸白く桃色に、輝いた時、彼はそこに、姉を思った。潰島田の人形を思った、栄螺と蛤を思った、吸口の紅を思って、火を投げるに忍びなくって、――橋に棄てた。
 これと斉しく、どろんとしつつも血走った眼を、白眼勝に仰向いて、熊の筒袖の皮|擦れ、毛の落ち、処々、大なる斑をなした蝦蟇のごときものの、ぎろぎろと睨むを見たのである。

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