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『薬草取』 青空文庫
さて、些《ちっ》と歩行《ある》かっせえと、岸で下してくれました。それからは少しずつ次第に流《ながれ》に遠ざかって、田の畦《あぜ》三つばかり横に切れると、今度は赤土《あかつち》の一本道、両側にちらほら松の植わっている処《ところ》へ出ました。
六月の中ばとはいっても、この辺には珍《めずら》しい酷《ひど》く暑い日だと思いましたが、川を渡り切った時分から、戸室山《とむろやま》が雲を吐いて、処々《ところどころ》田の水へ、真黒な雲が往《い》ったり、来たり。
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