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 『婦系図』 青空文庫

「お嬢さん。」
 お妙はそれまで気がつかなかった。呼《よば》れて、手を留《とめ》て主税を見たが、水を汲んだ名残《なごり》か、顔の色がほんのりと、物いわぬ目は、露や、玉や、およそ声なく言《ことば》なき世のそれらの、しいものよりしく、歌よりも心が籠った。

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