検索結果詳細


 『義血侠血』 青空文庫

 折から磧の小屋より顕われたる婀娜者あり。紺絞りの首抜きの浴衣を着て、赤毛布を引き絡《まと》い、身を持て余したるがごとくに歩みを運び、下駄の爪頭《つまさき》に戞々《かつかつ》と礫《こいし》を蹴遣りつつ、流れに沿いて逍遥いたりしが、瑠璃色に澄み渡れる空を打ち仰ぎて、
「ああ、いいお月夜だ。寝るには惜しい」
 川風はさっと渠の鬢を吹き乱せり。

 179/706 180/706 181/706


  [Index]