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 『湯島の境内』 青空文庫

お蔦 (顔を上ぐ)貴方こそ、水がわり、たべものに気をつけて下さいよ。私の事はそんなに案じないが可《よ》うござんす。小児《こども》の時から髪を結うのが好きで、商売をやめてから、御存じの通り、銀杏返《いちょうがえ》しなら人の手はかりませんし、お源の島田の真似もします。慰みに、お酌《しゃく》さんの桃割《ももわれ》なんか、お世辞にも誉《ほ》められました。めの字のかみさんが幸い髪結《かみゆい》をしていますから、八丁堀へ世話になって、梳手《すきて》に使ってもらいますわ。
早瀬 すき手にかい。
お蔦 ええ、修業をして。……貴方よりさきへ死ぬまで、人さんの髪を結《ゆ》ましょう。私は尼になった気で、(風呂敷を髪に姉《あね》さんかぶりす)円髷《まるまげ》に結《い》って見せたかったけれど、いっそこの方が似合うでしょう。

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