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 『古狢』 青空文庫

「――藤紫の半襟が少しはだけて、裏を見せて、繊《ほっそ》り肌襦袢の真なのが、縁の糸とかの、燃えるように、ちらちらして、静《しずか》に瞼《まぶた》を合わせていた、お藻代さんの肌の白いこと。……六畳は立籠《たてこ》めてあるし、南風気《みなみけ》で、その上暖か過ぎたでしょう。鬢《びん》の毛がねっとりと、あの気味の悪いほど、枕に伸びた、長い、ふっくりしたのどへまつわって、それでいて、色が薄《うっす》りと蒼《あお》いんですって。……友染の夜具に、裾は消えるように細《ほっそ》りしても――寝乱れよ、おじさん、家業で芸妓衆《げいしゃしゅ》のなんか馴《な》れていても、女中だって堅い素人なんでしょう。名古屋の客に呼ばれて……お信《のぶ》――ええ、さっき私たち出しなに駒下駄を揃えた、あの銀杏返《いちょうがえし》の、内のあの女中ですわ――二階廊下を通りがかりにね、(おい、ねえさんか、湯を一杯。)……

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