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 『春昼』 泉鏡花を読む

「唯、人と言へば、他人です、何でもない。是に名がつきませう。名がつきますと、父となります、母となり、兄となり、姉となります。其処で、其の人たちを、唯、人にして扱ひますか。
 偶像も同一です。唯偶像なら何でもない、此の御堂のは観世音です、信仰をするんでせう。
 ぢや、偶像は、木、金、乃至、土。それを金銀、珠玉で飾り、色彩を装つたものに過ぎないと言ふんですか。人間だつて、皮、血、肉、五臓、六腑、そんなもので束ねあげて、是に衣ものを着せるんです。第一貴下、美人だつて、たかがそれまでのもんだ。

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