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『国貞えがく』 青空文庫
祖母《としより》は解《ほど》き掛けた結目を、そのまま結えて、ちょいと襟を引合わせた。細い半襟の半纏の袖の下に抱えて、店のはずれを板の間から、土間へ下りようとして、暗い処で、
「可哀《かわい》やの、姉様たち。私《わし》が許を離れてもの、蜘蛛男に買われさっしゃるな、二股坂へ行くまいぞ。」
と小さな声して言聞かせた。織次は小児心《こどもごころ》にも、その絵を売って金子《かね》に代えるのである、と思った。……顔馴染の濃い紅、薄紫、雪の膚《はだえ》の姉様たちが、この暗夜《やみのよ》を、すっと門を出る、……と偶《ふ》と寂しくなった。が、紅、白粉が何んのその、で、新撰物理書の黒表紙が、四冊並んで、目の前で、ひょい、と躍った。
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