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 『婦系図』 青空文庫

 お妙は、今朝学校へ出掛けに、女中《おんな》が味噌汁《おみおつけ》を装《も》って来る間に、膳の傍《そば》へ転んだようになって、例に因って三の面の早読と云うのをすると、(独語学者の掏摸。)と云う、幾分か挑撥的の標語《みだし》で、主税のその事が出ていたので、持ちかえて、見直したり、引張《ひっぱ》ったり、畳んだり、太《いた》く気を揉んだ様子だったが、ツンと怒ったをしたと思うと、お盆を差出した女中《おんな》と入違いに、洋燈《ランプ》棚へついと起《た》って、剪刀《はさみ》を袖の下へ秘《かく》して来て、四辺《あたり》を〓《みまわ》して、ずぶりと入れると、昔取った千代紙なり、めっきり裁縫《しごと》は上達なり、見事な手際でチョキチョキチョキ。

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