検索結果詳細


 『古狢』 青空文庫

「名古屋の客が起上りしな、手を伸ばして、盆ごと取って、枕頭へ宙を引くトタンに塗盆を辷《すべ》ったんです。まるで、黒雲の中から白い猪が火を噴いて飛蒐《とびかか》る勢《いきおい》で、お藻代さんの、恍惚《うっとり》したその寝顔へ、蓋《ふた》も飛んで、仰向《あおむ》けに、熱湯が、血ですか、蒼い鬼火でしょうか、玉をやけば紫でしょうか……ばっと煮えた湯気が立ったでしょう。……お藻代さんは、地獄の釜《かま》で煮られたんです。
 あの、しい、鼻も口も、それッきり、人には見せず……私たちも見られません。」
「野郎はどうした。」

 188/310 189/310 190/310


  [Index]