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 『活人形』 鏡花とアンティークと古書の小径

 叔母に下枝、藤とて美しき二人の娘あり。我とは従兄妹同士にていづれも年紀《とし》は我より少《わか》し。多くの腰元に斉眉《かしづ》かれて、荒き風にも当らぬ花なり。我は食客の身なれども、叔母の光を身に受けて何不自由無く暮せしに、叔母はさる頃病気《やまひ》に懸り、一時に吐血して其夕敢なく逝《みまか》りぬ。今より想へば得三が毒殺なせしものなるべし。さる悪人とは其頃には少しも思ひ懸けざりき。
 去れば巨万の財産を挙《あ》げて娘の所有《もの》となし、姉の下枝に我を娶《めあ》はせ後日家を譲るやう、叔はくれ/゛\遺言せしが、我等の年紀《とし》の少《わか》かりければ、得三は旧《もと》のまゝ一家を支配して、己が随意《まゝ》にぞ振舞ひける。

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