検索結果詳細


 『薬草取』 青空文庫

 余《あまり》の事にしくしく泣き出すと、こりゃ餒《ひもじゅ》うて口も利けぬな、商売品《あきないもの》で銭《ぜに》を噛ませるようじゃけれど、一つ振舞《ふるも》うて遣《や》ろかいと、汚《きたな》い土間に縁台《えんだい》を並べた、狭ッくるしい暗い隅《すみ》の、苔《こけ》の生えた桶《おけ》の中から、豆腐《とうふ》を半挺《はんちょう》、皺手《しわで》に白く積んで、そりゃそりゃと、頬辺《ほっぺた》の処《ところ》へ突出《つきだ》してくれたですが、どうしてこれが食べられますか。
 そのくせ腹は干《ほ》されたように空いていましたが、胸一杯になって、頭《かぶり》を掉《ふ》ると、はて食好《しょくごのみ》をする犬の、と呟《つぶや》いて、ぶくりとまた水へ落して、これゃ、慈悲を享《う》けぬ餓鬼《がき》め、出て失《う》せと、私の胸へ突懸《つッか》けた皺だらけの手の黒さ、も漆《うるし》で固めたよう。

 190/283 191/283 192/283


  [Index]