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 『活人形』 鏡花とアンティークと古書の小径

 此時しも得三が、お藤を責めて婚姻を迫る折なりしかば、如何《いかに》せば救ひ得られむかと、思ひ悩み居たるうち、火取虫に洋燈《ランプ》消えて、此上無《こよな》き機会を得たるにぞ、怪しき声音に驚かせしに、折よく外《ほか》にも人ありて妹を抱きて遁出《にげい》でたれば、嬉しやお藤は助かりぬ。我も早く出去《いでさ》らむと又もや廊下を伝はりて穴に下りむと踏迷ひ、運拙うして又旧《もと》の座敷牢に入り終んぬ。かゝりしほどに身は疲れ、小指の疵の痛苦《いたみ》劇しく、心ばかりは急《はや》れども、足蹌踉《よろば》ひて腰起たず、気さへ漸次《しだい》に遠くなりつ、前後も知らで居たりけるを得三に見出されて、さてこそ斯《かく》は悪の手に斬殺されむとするものなれ。

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