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 『日本橋』 青空文庫

 葛木は踵を刻んで、
「聞け、聞け。だが何にも言うことが出来ない。……では、お前、私がきれれば、お孝は確にお前に戻るか、その、お前に、お孝が戻ると思うのかよ。」
「そりゃ、そりゃ戻っても戻らいでも、国手があるより増だでね、声だけ聞くでも姿だけ見るでも、国手と二人の時と、お孝一人の時とでは、俺が心持がどう違うか考えずとも分るだでね。拝むですだよ。何も言わんで。……こ、こ、この橋板に摺付けて血を出いて願いたいども、額の厚ぼったい事だけが、我が身で分る外何にも分らん。血の出ないのが口惜いですだ。」と頭を釘に、線路の露の鉄を敲く。

 1933/2195 1934/2195 1935/2195


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