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『古狢』
青空文庫
分外なお金子《かね》に添えて、立派な名刺を――これは極秘に、と云ってお出しなすったそうですが、すぐに式台へ出なさいますから、(ちょっとどうぞ、旦那。)と引留めて置いて、まだ顔も洗わなかったそうですけれど、トントンと、二階へ上って、大急ぎで廊下を廻《めぐ》って、襖《ふすま》の外から、
(――夫人《おく》さん――)
ひっそりしていたそうです。
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