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 『国貞えがく』 青空文庫

 コトコトと下駄の音して、何処まで行くぞ、時雨の脚が颯と通る。あわれ、祖母《としより》に導かれて、振袖が、詰袖が、褄を取ったの、裳を引いたの、鼈甲の櫛の照々《てらてら》する、銀の簪の揺々《ゆらゆら》するのが、真白な脛《はぎ》も露わに、友染の花の幻めいて、雨具もなしに、びしゃびしゃと、跣足《はだし》で田舎の、山近な町の暗夜《やみよ》を辿る風情が、雨戸の破目《やぶれめ》を朦朧として透いて見えた。
 それも科学の権威である。物理書というのを力に、幼い眼を眩《くら》まして、そのしい姉様たちを、ぼったて、ぼったて、叩き出した、黒表紙のその状《さま》を、後に思えば鬼であろう。

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