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 『夜叉ヶ池』 青空文庫

が、まさか、一生、ここに鐘を撞いて終ろうとは思わなかった。丑満は爺が済ました、明六つの鐘一度ばかり、代って撞くぐらいにしか考えなかった。が、まあ、爺が死ぬ、村のものを呼ぼうにも、この通り隣家《となり》に遠い。三度の掟《おきて》でその外は、火にも水にも鐘を撞くことはならないだろう。
学円 その鳴らしてならないというは、どうした次第《わけ》じゃね?
晃 鐘は、高く、ここにあって――その影は、深く夜叉ヶ池の碧潭《へきたん》に映ると云う。……撞木《しゅもく》を当てて鳴る時は、凩《こがらし》にすら、そよりとも動かない、その池の水が、さらさらと波を立てると聞く。元来、竜神を驚かすために打鳴らすのであるから、三度のほかに騒がしては、礼を欠く事に当る。……

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