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 『二、三羽――十二、三羽』 青空文庫

 別の儀でない。雀の一家族は、おなじ場所では余り沢山には殖えないものなのであろうか知ら? 御存じの通り、稲塚、稲田、粟黍《あわきび》の実る時は、平家の大軍を走らした鳥ほどの羽音を立てて、畷行《なわてゆ》き、畔行くものを驚かす、夥多《おびただ》しい群団《むれ》をなす。鳴子《なるこ》も引板《ひた》も、半ば――これがための備《そなえ》だと思う。むかしのもの語《がたり》にも、年月《としつき》の経る間には、おなじ背戸に、孫も彦も群るはずだし、第一椋鳥と塒《ねぐら》を賭けて戦う時の、雀の軍勢を思いたい。よしそれは別として、長年の間には、もう些と家族が栄えようと思うのに、十年一日と言うが、実際、――その土手三番町を、やがて、いまの家へ越してから十四、五年になる。――あの時、雀の親子の情に、いとしさを知って以来、申出るほどの、さしたる御馳走でもないけれど、お飯粒《まんまつぶ》の少々は毎日欠かさず撒いて置く。たとえば旅行をする時でも、……「火の用心」と、「雀君を頼むよ」……だけは、留守へ言って置くくらいだが、さて、何年にも、ちょっと来て二羽三羽、五、六羽、総勢すぐって十二、三羽より数が殖えない。長者でもないくせに、俵で扶持《ふち》をしないからだと、言われればそれまでだけれど、何、私だって、もう十羽殖えたぐらいは、それだけ御馳走を増すつもりでいるのに。

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