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 『国貞えがく』 青空文庫

 此処からはもう近い。この柳の通筋《とおりすじ》を突当りに、真蒼《まっさお》な山がある。それへ向って二町ばかり、城の大手を右に見て、左へ折れた、屋並《やなみ》の揃った町の中ほどに、きちんとして暮しているはず。
 その男を訪ねるに仔細はないが、訪ねて行くのに、十年越の思出がある、……まあ、もう少し秘して置こう。
 さあ、其処へ、となると、早や背後《うしろ》から追立《おった》てられるように、そわそわするのを、なりたけ自分で落着いて、悠々と歩行《ある》き出したが、取って三十という年紀《とし》の、渠の胸の騒ぎよう。さては今の時の暢気さは、この浪が立とうとする用意に、フイと静まった海らしい。

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