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 『婦系図』 青空文庫

 と主税が、胸を斜めにして、片手を膝へ上げた時、お妙のリボンは、何の色か、真白な蝶のよう、燈火《ともしび》のうつろう影に、黒髪を離れてゆらゆらと揺《ゆら》めいた。
「もう帰るの?」
 と先へ声を懸けられて、わずかに顔を上げてお妙を見たが、この時の俤は、主税が世を終るまで、忘れまじきものであった。

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