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 『化鳥』 青空文庫

いまじやあもう半年も経つたらう、暑《あつ》さの取着《とつつき》の晩方頃《ばんかたごろ》で、いつものやうに遊びに行つて、人が天窓《あたま》を撫でゝやつたものを、業畜《がふちく》、悪巫山戯《わるふざけ》をして、キツ/\と歯を剥《む》いて、引掻《ひつか》きさうな権幕《けんまく》をするから、吃驚《びつくり》して飛退《とびの》かうとすると、前足でつかまへた、放さないから力《ちから》を入れて引張り合つた奮《はづ》みであつた。左《ひだり》の袂《たもと》がびり/\と裂《さけ》てちぎれて取《とれ》たはづみをくつて、踏占《ふみし》めた足がちやうど雨上《あまあが》りだつたから、堪《たま》りはしない、石の上を辷《すべ》つて、ずる/\と川へ落ちた。わつといつた顔へ一波《ひとなみ》かぶつて、呼吸《いき》をひいて仰向《あをむ》けに沈《しづ》むだから、面くらつて立たうとするとまた倒《たふ》れて眼がくらむで、アツとまたいきをひいて、苦しいので手をもがいて身躰《からだ》を動かすと唯どぶん/\と沈《しづ》むで行く、情《なさけ》ないと思つたら、内《うち》に母様《おつかさん》の坐《すは》つて居らつしやる姿が見えたので、また勢《いきおひ》ついたけれど、やつぱりどぶむ/\と沈《しづ》むから、何うするのかなと落着《おちつ》いて考へたやうに思ふ。それから何のことだらうと考えたやうにも思はれる、今に眼が覚めるのであらうと思つたやうでもある、何だか茫乎《ぼんやり》したが俄《にわか》にン中だと思つて叫《さけ》ばうとするとをのんだ。もう駄目《だめ》だ。

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