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 『婦系図』 青空文庫

 格子の外にちらちらした、主税の姿が、まるで見えなくなったと思うと、お妙は拗《す》ねた状《さま》に顔だけを障子で隠して、そのつかまった縁を、するする二三度、烈しく掌《たなそこ》で擦《こす》ったが、背《せな》を捻《よ》って、切なそうに身を曲げて、遠い所のように、つい襖の彼方《あなた》の茶の間を覗くと、長火鉢の傍《わき》の釣洋燈の下に、ものの本にも実際にも、約束通りの女中《おさん》の有様。
 ちょいと、風邪を引くよ、と先刻《さっき》から、隣座敷の机に恁《よ》っかかって絵を描《か》きながら、低声《こごえ》で気をつけたその大揺れの船が、この時、最早や見事な難船。

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